1月16日、デヴィッド・リンチ監督がこの世を去りました。 彼の代表作といえば、なんといってもドラマ『ツイン・ピークス』ではないでしょうか。同作は、日本で海外ドラマが大々的に流行る前の1991年にWOWOWが放送した作品で、その独特でラリった世界観が見た人をあっという間に虜にしただけでなく、開局当初のWOWOWを日本で広く認知させた立役者的ドラマでもあります。 放送当時、筆者は学生でしたが、「最高に美味しいコーヒー(damn fine coffee)」(『ツイン・ピークス』の主人公の有名なセリフ)と言っただけでピンとくるかが海外トレンドに敏感かのバロメーターの1つになっていたのではないでしょうか。デヴィッド・リンチ監督の作品というのは、それほどパワフルで影響力がありました。 映画ファンに衝撃を与え、強く魅了したのはもちろんのこと、映画業界全般にも強い影響を与えました。現実と非現実を行き来するような、狂気に支配された人の脳みそを取り出して可視化したような世界観は「映画における狂気」を学ぶ上での資料にすらなるほど。 中でも『イレイザーヘッド』(1976)と『エレファント・マン』(1980)『ブルーベルベット』(1986)はキレッキレで、評価される一方で、半端なく嫌われてもいました。 そんなリンチ監督の悲報を受けて、映画界の大御所たちが悲しみをポストしています。 まずは、自身の半生を描いた『フェイブルマンズ』で共に仕事をしたスティーブン・スピルバーグ監督がVarietyに寄せた声明を紹介します。 デヴィッドの映画が大好きでした。『ブルーベルベッド』、『マルホランド・ドライブ』、『エレファント・マン』は、彼を唯一無二のビジョナリーな夢想家として定義づけました。それらの作品は、まるで手作りのような温かさを持っていました スピルバーグ監督とリンチ監督は旧知の仲というわけではなく、『フェイブルマンズ』にリンチ監督が出演したことをきっかけに知り合ったそうです。 リンチ監督のことを「私のヒーローのひとり」と表現したスピルバーグ監督は、「彼のような独創的な才能を失ったことで世界は寂しくなった」と語り、リンチ監督のいない世界を憂いています。 次は『ツイン・ピークス』でスターの階段を駆け上ったカイル・マクラクランの言葉。Instagramに、思い出の写真と追悼コメントを投稿しました。 42年前、デヴィッド・リンチは無名の私に何かを見出し、彼の最初で最後の大規模予算作品の主演に抜擢してくれました。彼は、私自身が気づいていなかった何かを見出してくれたのです。私のキャリアの全てと人生は、彼のビジョンのおかげなのです。 『ツイン・ピークス』と『ブルーベルベット』で主演したマクラクランは、リンチ監督を「人々が理解できない何かとつながっているようだった」と表現しています。 世界は並外れた才能を持つ芸術家を失いましたが、私は自分に未来を想像させ、自力では思い描くことすらできなかった世界を見せてくれた親友を失いました。裏庭で立ち上がり、笑顔と大きなハグと特徴的な声で私を迎えてくれた彼の姿を思い出します。コーヒーや世界の美しさについて語り合い、大笑いした日々を思い出します。 (中略) 言葉で表現しきれないほど彼が恋しく、耐えきれないほど悲しいです。あなたと出会えて私の人生は豊かになり、あなたが去ってその豊かさを失いました。 デヴィッド、私の人生はあなたとの出会いによって永遠に変わったのです。ほんとうにありがとう 他にもリンチ監督に多大なる影響を受けていた著名人が追悼コメントをSNSに投稿しました。その一部を紹介します。 ジェームズ・ガン(監督 代表作『ガーディアン・オブ・ギャラクシー』シリーズなど) ロン・ハワード(監督 代表作『バックドラフト』『アポロ13』『ハン・ソロ/スター・ウォーズ・ストーリーなど) サム・レイク(ゲーム『アラン・ウェイク』脚本) ジョン・カーペンター(監督 代表作『ハロウィン』シリーズ) SNSでリンチ監督の名前を検索すると、多くの人たちが悲しみを投稿しています。 筆者は、彼が愛したコーヒーを飲んで作品を見直しながら寂しさを受け入れようかな。 初期の作品だと落ち込むので、老人が芝刈り機に乗って約560キロを旅する『ストレイト・ストーリー』あたりで。
中川真知子
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