中学生が車にはねられ死亡した事故で、飲酒運転を隠すためにコンビニで買い物をしてから数分後に現場に戻った被告がひき逃げに当たるかどうかが争われた裁判で、最高裁判所はコンビニに向かった時点でひき逃げに当たると判断し、2審の無罪を取り消し、懲役6か月の実刑判決を言い渡しました。
10年前、長野県佐久市で横断歩道を渡っていた中学3年生の和田樹生さん(当時15)が車にはねられて死亡しました。運転していた池田忠正被告(52)は、過失運転致死の罪で有罪判決が確定したあと、事故当時、コンビニに寄って口臭防止用品を購入し、すぐに救護措置をとらなかったとしてひき逃げの罪にも問われました。1審は「飲酒を隠す行動を優先した」として懲役6か月としましたが、2審は「数分で戻り人工呼吸などをし、直ちに救護措置をとらなかったとは言えない」として無罪を言い渡し、検察が上告していました。7日の判決で最高裁判所第2小法廷の岡村和美裁判長は「救護義務とは現場の状況に応じてけが人の救護や危険防止のため必要な措置をすることだ。被害者を見つけられていないのに、救護と無関係の買い物のためにコンビニに向かった時点で、救護義務に違反したと認められる」と指摘し、2審判決を取り消し、懲役6か月を言い渡しました。
これで実刑判決が確定することになります。
亡くなった和田樹生さんの両親が都内で会見を開きました。母親の和田真理さん(53)は「判決を聞いた瞬間、涙があふれました。横断歩道を歩いていた樹生はすぐに救護もされず15歳で亡くなりました。きょうの判決で一歩を踏み出せる気持ちになりました」と話していました。
父親の和田善光さん(54)は「自分の都合で現場を離れることは、1分1秒でも早い救護が必要な被害者にとって殺人に匹敵する悪質な行為だと思う。この判決で、人をはねたらすぐに救護するということが徹底され、1人でも命が救われる社会になってほしい」と話していました。
事故をめぐっては、乗用車を運転していた被告に対し、異なる罪で3度の裁判が行われるという異例の経過をたどりました。10年前の2015年3月、長野県佐久市で横断歩道を渡っていた当時中学3年生の和田樹生さんが(当時15)乗用車にはねられて死亡しました。運転していた当時42歳の池田忠正被告が過失運転致死の罪に問われ、裁判では飲酒運転を隠すため、救護を行う前に現場を離れ、コンビニで口臭防止用品を購入していたことが明らかになりました。しかし、ひき逃げや酒気帯び運転などの罪は適用されず、過失運転致死の罪のみで執行猶予の付いた有罪判決が確定しました。その後、樹生さんの両親は防犯カメラの映像や目撃証言を集めるなどしてひき逃げなどの罪で告訴しました。しかし、当時の検察はひき逃げでの立件を見送り、法定速度を30キロ以上超えて運転した罪などで起訴しました。長野地裁佐久支部は2019年3月、法定速度を超えたのは16キロにとどまるとして起訴を無効とする判決を言い渡しました。その後も両親は、再捜査やひき逃げでの起訴を求める上申書や嘆願書を検察に提出し、検察は、時効まで2か月を切った2022年1月、ひき逃げの罪で起訴しました。そして始まった3度目の裁判で1審の長野地裁は、「飲酒を隠す行動を優先した」としてひき逃げに当たると認定し、懲役6か月の実刑判決を言い渡しました。一方、2審の東京高裁はおととし9月、コンビニから戻ったあとに人工呼吸などを行っており直ちに救護義務を果たさなかったとは言えないとして、1審とは逆に無罪の判決を言い渡しました。
検察が上告し、最高裁判所の判断が注目されていました。