(社説)トランプ関税 「貿易戦争」招く暴挙だ

2025年1月31日、ホワイトハウスで記者団を前に話すトランプ米大統領=AP

トランプ米大統領が、新たな関税措置を4日に発動する大統領令に署名した。一方的な関税の強化は国際秩序と世界経済を傷つける暴挙と言うしかない。報復の連鎖で「貿易戦争」の再燃も現実味を帯びる。勝者のいない対立激化は避けなければならない。

メキシコカナダからの輸入品に原則25%を課し、中国には現状の関税に10%分を上乗せする。不法移民や合成麻薬の流入を理由に挙げており、関税を武器に通商と関係ない課題を有利に運ぼうとする「ディール外交」の姿勢が露骨だ。超大国による理不尽な経済的威圧にほかならず、断じて容認できない。

最大の問題は、WTO(世界貿易機関)協定など通商の国際ルールを軽んじた独善的な行動である点だ。1期目のトランプ政権は北米自由貿易協定NAFTA)を批判し、自国に有利な形で米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)を結んだが、それにも抵触する疑いが濃い。

自ら中核を担ってきた貿易秩序を踏みにじり、国際的な信用も損ねる。その愚かさをトランプ氏は自覚すべきだ。

実体経済への打撃も懸念される。対象品目は広く、工業製品や食料、天然資源など多くの分野で、コスト増や収益圧迫の要因となる。国境をまたいだ供給網が張り巡らされた自動車産業では深刻な支障が見込まれ、日本企業も難しい対応を迫られる。

トランプ氏は、関税を負担するのは外国企業だと強調するが、的外れだ。輸入品の値上がりは、米国の消費者や企業の負担増を招くことは避けがたく、沈静化してきたインフレ圧力を高めかねない。

相手国は猛反発している。メキシコとカナダは報復関税などを準備し、中国もWTOに提訴する方針を表明した。対抗措置は十分予想されたことであり、異常事態を招いた責任は米国にある。

トランプ氏はさらに報復もちらつかせるが、争いがエスカレートすれば、双方とも深手を免れないばかりか、世界的な景気腰折れの引き金にもなりかねない。各国は事態の早期収拾に知恵をしぼり、行動すべきだ。

日本にとっても、対岸の火事ではない。戦後の自由貿易体制で多大な恩恵を受けてきた日本には、その守り手として外交努力を尽くす責任がある。トランプ氏は各国への一律関税にも言及しており、日本が直接対象になる可能性も捨て切れない。

石破首相は近く、トランプ氏との首脳会談に臨む。貿易戦争の不毛さを説き、粘り強く撤回を促してほしい。

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