――前園さんはサッカー関連の番組、イベントのほかバラエティー番組や情報番組に出演されています。指導者で現場復帰を考えることはありますか
ないですね。JFA 公認S級コーチライセンス(日本代表、Jリーグ監督に必要な資格)を持っていますけど……ないと断言しましょう(笑)。やっぱり情熱がないとクラブや選手に失礼ですしね。ありがたいことに、サッカーの仕事やいろいろなテレビ番組に出演させていただいているので、今のスタンスが一番合うかなと感じています。
「仕事をいただけるのは当たり前ではない」
――14年にフジテレビ系の情報番組「ワイドナショー」での出演を機に、バラエティー番組での出演が増えました
レギュラーのスポーツ番組以外で初めての仕事ですし、緊張しました。ダウンタウンの松本(人志)さんに自分の口から失敗を話す機会をいただいて、いじっていただいたことで多くの番組に呼んでいただくようになって。ワイドナショーの出演がなかったら、今の自分はないですね。
――前園さんの表情が穏やかになったように感じます
自分ではそういう意識はないんですけど、周りにはよく言われます。ただ、仕事に向き合う姿勢はあの事件を機に変えなければいけないという危機感は強く感じました。サッカー選手としてプレーして、現役引退後にすぐにスポーツ番組のレギュラーをいただいて、恵まれた状況が日常になって感謝の思いが薄れていた部分が正直あったと思います。仕事をいただけることは当たり前ではないですし、共演者、番組スタッフや応援してくれる方たちに感謝の思いを持って向き合わないと、誰にも信頼してもらえない。その気持ちはこれからも忘れてはいけないと思っています。
(聞き手・平尾類)
まえぞの・まさきよ/1973年10月29日生まれ。鹿児島県出身。鹿児島実業から92年にJリーグ・横浜フリューゲルスに入団。アルゼンチン留学を経て、93年途中からレギュラーをつかむと、96年のアトランタ五輪では日本代表の主将でブラジルを撃破する「マイアミの奇跡」の立役者に。ヴェルディ川崎(現・東京ヴェルディ)、湘南ベルマーレのほか、ブラジルのサントスFC、ゴイアスEC、韓国の安養LGチータース、仁川ユナイテッドでプレーし、05年5月に現役引退を表明。09年にラモス瑠偉監督率いるビーチサッカー日本代表で現役復帰し、同年11月にUAEで開催されたW杯でベスト8進出に貢献した。現在はサッカー解説者、タレントとして活動しながら、「ZONOサッカースクール」を運営するなどサッカーの普及活動を行っている。
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――2013年10月に酒に酔って乗車したタクシーで運転手に暴行し、逮捕された一件(その後に処分保留で釈放)がありました。ご自身の人生で大きな出来事だったと思います
なにも言い訳できないです。事件後に運転手の方へ謝罪に向かったら、記憶をなくしてああいう態度を取ってしまった自分に対して、第一声でこれからのことを心配していただいて。こちらが全面的に悪いのに、本当に申し訳なかったですし情けなかった。現役でプレーしていたときは一定の生活リズムでしたが、引退後はいろいろなお仕事をする中で生活が不規則になります。お酒の問題ではなく、さまざまな人が寄ってくる中で自分を律する判断ができていなかったことが良くなかったと思います。
「ゾノに渡してくれ」
――活動自粛期間はどのようなことを考えていましたか
たくさんの方にご迷惑を掛けましたし、離れていく方がたくさんいました。それは自分の責任です。その中でも仕事の穴埋めをしていただくなど、手を差し伸べてくれた方に救われました。ラモス瑠偉さんから、「収入に不安があるだろうからオレは(穴埋めの仕事のギャラを)受け取らないよ。ゾノ(前園)に渡してくれ」とマネジャーを通じてメッセージをいただいたときは涙が出ました。ヒデ(中田英寿)からもすぐに連絡が来ました。自分が逆の立場だったら同じことができたかと考えると……ありがたいですよね。
(鹿児島実業時代の)松沢(隆司)監督に電話したときは、「もう一回、やり直せ」と。高校時代もドリブルを相手に止められたときに「何回でもやり直せ。ミスをしても逃げるな」と監督に言われてきました。サッカーと事件を同じにしてはいけないし、その後仕事をいただけるか分からなかったけど、信頼を取り戻すためにやり直すしかないと考えていました。
――今も禁酒されているんですか
あの事件以来一滴も飲んでいません。もともとお酒が好きなわけじゃないんです。炭酸飲料のほうが好きですし。お酒の場の雰囲気が好きなだけで、若いときから自宅で飲んだことは一度もないです。ただ、お酒を飲まないことがえらいとは思っていません。「もう飲んでもいいんじゃない?」と言っていただくこともあるんですけど、我慢している感覚ではなく、飲む必要がないと思っています。