この記事の写真をすべて見る20日放送の「しゃべくり007」(日本テレビ系・毎週月曜午後9時)は、日本サッカー界のレジェンド、キングカズこと三浦知良を語り尽くす2時間SPだ。同級生から日本代表までキングカズを知り尽くすイレブンが大集結する。メインゲストの三浦知良のほか、武田修宏、都並敏史、岡野雅行、前園真聖、そして森保一日本代表監督と豪華な面々が揃う。日本のサッカー界にまつわる過去によく読まれた記事を振り返る(「AERA dot.」2021年11月5日配信の記事を再編集したものです。本文中の年齢等は配信当時のものです。)
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もしも、サッカー界に大谷翔平級の選手がいたら……。米大リーグ・エンゼルスの大谷翔平(27)が野球界で活躍すればするほど、こんな妄想をしてしまう。日本サッカー史においては、プロ化から約30年経ってもなお「世界を驚嘆させるようなスーパースター」は輩出されておらず、最優秀選手賞「バロンドール」の日本人受賞者も現れないままだ。
プロサッカー選手の間でも、大谷のようなスター選手のサッカー界での出現を熱望する声は挙がっていた。大谷は昨シーズン、投打の二刀流で大活躍し、コミッショナー特別表彰など数々の栄誉ある賞を獲得。“ファンタジスタ”でとして、敵チームのファンをも熱狂させた。その活躍ぶりは、サッカーでいう「メッシ級」であると言っても過言ではないだろう。
サッカー界ではなぜ、日本人選手から世界を魅了するようなスーパースターが現れないのか。両競技における世界競技人口の違いは大前提として、他に考えられる要因はあるはずだ。セルジオ越後氏やワールドサッカーマガジン元編集長に話を聞いた。
まず考えられるのは、ほかの競技への「人材の分散」だろう。数々のプロスポーツを擁し、特に野球と人気を二分する日本において、優秀な才能や身体能力を持つ選手がほかの競技に分散してしまうことは、想像に難くない。
「ワールドサッカーマガジン」元編集長で、現在はフリーのサッカーライターをしている北條聡氏も、「日本では野球という大きな競合相手がいるので、運動能力の高い子は野球にも流れてしまう。人材がなかなかそろわない」と話し、こう続ける。
「最近はサッカーでもようやく、イングランド・プレミアリーグのアーセナルで活躍する冨安健洋選手(DF)のような、サイズとスピードを併せ持った大型選手が台頭するようになりました。体格や身体能力に恵まれた人材がもっとサッカーに流れてくるようになれば、話が変わってくると思います」
サッカーは日本においても屈指の人気スポーツだが、ファンタジスタを多数輩出してきたブラジルやイタリアなどの「サッカー大国」と比べると、その地位は相対的に見劣りする。
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「プロ化して以降、サッカーも競技人口が増えているものの、サッカー大国とは言えません。メッシやクリスチアーノ・ロナウドを輩出しているポルトガルやアルゼンチンでは、圧倒的にサッカーが人気ですから。もし、大谷選手がドイツやイタリアで生まれていたら、サッカーをやっていた可能性も十分ありますし、それこそクリロナみたいな選手になっていたかもしれない。逆に、メッシやクリロナが日本で生まれていたら、野球をやっていたかもしれないですよね」(北條氏)
北條氏によれば、スターの存在が、その競技のさらなる活性化を促してきたという。
「ブラジルやアルゼンチンでは昔から、ペレやマラドーナなどのスーパースターが輩出されてきて、彼らがアイコン役となって人材を呼び込んできた。その点、日本の子どもたちは大谷選手の活躍を見て、『俺も大谷みたいになりたい』と言って野球を始める人が増えそうですよね」
サッカー解説者のセルジオ越後氏にも話を聞いた。セルジオ氏は“プロ入り前”の段階である「高校スポーツ」に着目。高校スポーツを取りまとめる機関は文科省だ。セルジオ氏は「文科省の管轄のままでは、強くならない」と指摘する。
「日本の学校には、“選手”がいない。皆、“生徒”なのです。文部科学省が推進している以上、いかに勉強させるかが最優先ですし、スポーツは二の次。6・3・3制度の中で生徒としてスポーツをしている限り、いつまでたっても選手にはなれません」
ならば、クラブチームに入ればいい、という指摘もある。
「ですが、日本は学歴社会。中学まではクラブでも、高校からスポーツ推薦で私立高校に入学し、大学の推薦枠を狙う人も多い。日本ではプロになれなかった場合におびえて、学歴をキープする人も多いのです。中学卒業後にブラジルに渡った三浦知良さんのように、早くからレベルの高い海外に出ることも成長につながりますが、海外に出て成功するのは一握りなので、みな尻込みしてしまう。Jリーグができてどれだけ年数がたっても、学校に依存している現状ではダメ。特に国際競争力の激しいサッカーでは、文科省が仕切っている限り、100年経っても外国に追いつくことはないと思います」
セルジオ氏は高校サッカーをめぐる組織の在り方についても手厳しい。こう指摘する。
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「野球には高野連(日本高等学校野球連盟)という独立した組織があるのに、サッカーは高体連(全国高等学校体育連盟)として、ほかのスポーツの中にひとくくりにされています。僕は海外から来たとき、なぜ野球だけが独立しているのか不思議だったのです。(レベル向上において)高野連の果たしてきた役割は大きいですし、サッカーと扱いが大きく違う。それなら、サッカーも野球にならって『高校サッカー連』を作るべきではないでしょうか」
その上で、セルジオ氏は世界的スターの不在について、日本人に不足しているある能力を指摘する。
「特にストライカーには、クリエイティビティーが求められます。これは、教えられて身につくものではありません。ペレやマラドーナ、ネイマールも幼いころはストリートサッカーで大人も子どもも一緒になって、自分の頭で考えながらプレーし、センスを養いました。でも日本ではクラブチームでも授業のような形で、教えられたことをこなすだけ。これでは自分で考えてプレーするのではなく、教えられたことを忠実にこなす選手ばかりが生まれてしまう」
サッカー界においても、グローバル化の波はすっかり浸透した。大陸を渡り、欧州のクラブチームに優秀な選手が一極集中している。前出の北條氏も、「現状では、欧州に早い段階で渡るのが、個人のレベルを上げる一番の近道」と話す。10歳でスペインに渡った久保建英が頭角を現したのは、その象徴だ。
だが、日本人にとっては「地理的な要因」が、欧州に渡る際の障壁になる。
「ヨーロッパでは隣の国の育成システムで育ち、その選手が代表チームで活躍するという流れがありますが、それは地理的に近いからこそできること。南米も、ヨーロッパが比較的近いので戻ってきやすい。ですが、日本の場合はヨーロッパと離れているので、久保みたいなことをするのはハードルが高い。なかなかできることではありません」(北條氏)
いくつかの要素が挙がったが、これらは一例にすぎず、実際は様々な要素が複雑に絡み合っているのだろう。北條氏は、最後にこう話す。
「大谷選手は何もない文脈から生まれたわけではなく、日本がWBC(ワールド・ベースボール・クラシック)で世界一になるような実力を持ち、戦前からの歴史があるような競技だったからこそ。そう考えれば、サッカーはプロができて、たかだか30年ほど。ブラジルのようなサッカー大国では、偉大な先達から脈々と資産が受け継がれていますが、日本では、後の世代が先輩たちをどんどん追い抜いているような状況で、まだまだ発展途上。世界的スターが出ないというのは、ないものねだりなのかもしれません」
(AERA dot.編集部・飯塚大和)