「昔やったものを再演する方向に逃げたくなかった。今の自分たちにしかできない物語」と新作を語る三谷幸喜(酒巻俊介撮影)
約30年の充電期間を経て2月、劇作家・演出家の三谷幸喜(63)率いる劇団「東京サンシャインボーイズ」のメンバーが再結集し、新作「蒙古が襲来」を全国で上演する。物語の舞台は13世紀、蒙古襲来前夜の長崎・対馬の漁村。「今なら、宇宙人が攻めてくるような感覚ではないか」。作・演出の三谷が、普通の漁民から見た歴史的大事件を描く。
対馬に自身のルーツ
「実は母方の祖母が『宗(そう)』という名字。宗助国(1207~74年、鎌倉時代中期の武将、対馬守護代。元寇で戦死)の流れをくむので子供の頃、対馬に行っていました」と自身のルーツを語る三谷。
異国が遠かった鎌倉時代、大鎧姿の武将が、蒙古の大軍に奮戦する光景を想像しては「郷愁をそそられる気持ち」が湧き、構想の種を抱えていた。とはいえ今回の主役は、対馬の漁民たちだ。
「蒙古の大船団が来る直前、数時間後には死んでいるかもしれない危機に気づかず、ただただ日常生活を送る人々のドラマを書きたかった」
こうして新作は、相島一之ら60代に入った劇団員に当て書きした群像劇となった。「いざ書いてみたら、舞台となる村に、若者が一人もいない」と笑わせた。
出演は、劇団メンバーの阿南健治や梶原善、西村まさ彦らに加え、吉田羊ら三谷と縁の深い顔ぶれが集まった。
「30年の充電期間」
新作舞台「蒙古が襲来」の出演者らに囲まれる三谷幸喜(中央)。かつての劇団スタッフも集結する(PARCO劇場提供)
東京サンシャインボーイズは、三谷が日本大芸術学部在学中の昭和58年に高校、大学の同級生と旗揚げした。「3歳児から瀕死の老人までが楽しめる芝居」を掲げ、平成に入ると「12人の優しい日本人」「ラヂオの時間」など、コメディータッチの群像劇が大ヒット。しかし、人気絶頂だった平成6年、舞台「罠」を最後に「30年の充電期間に入る」と宣言し、老境の復活公演は「リア玉(仮題)」としていた。
「冗談で出したので縛られませんが、忘れてはいません。劇団復活は、僕からやろうとは一言も言っていませんが、俳優さんから話が出るなら力を貸す」
劇団は21年、ホームグラウンドにしていたシアタートップス(東京都新宿区)の閉館イベントで、15年ぶりに復活したが、今回はさらに15年がたった。
「15年前は感じなかったけれど、お互い老けた(笑)。昔は老けメークもしたけれど、今は不要。無理に若作りせず、今の僕らにしかできない物語をやります」
「宇宙人」との戦い
三谷は昨秋、「ペン芸人」を自称する松野大介との対談「三谷幸喜 創作の謎」(講談社)を出版。この中で、脚本を手掛けた令和4年放送のNHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」を振り返り、「自分の意志とは関係なく、何かを中心でやらなければならなくなった人の物語が好き」と語っている。
元寇も、当時の漁民にとっては驚天動地の「今なら宇宙人」の襲来だ。
「最初に攻められた日の朝、自分が対馬の漁村にいたら、どんな時間を過ごしていただろう。でも〝宇宙人〟が攻めてきたら、戦うしかない。そんな想像から話を作っていきます」
のっぴきならない状況に置かれても、くじけず奮闘する名もなき人々を描くのは、劇団時代と変わらないが、「公演後は80年間の充電に入り、次回公演は2105年」と最後はけむに巻いた。(飯塚友子)
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東京公演は2月9日~3月2日、渋谷のPARCO劇場(03・3477・5858)。岡山、京都、長野、宮城、北海道、大阪、愛知、福岡、沖縄公演あり。