【ワシントン=田中一世】日米首脳会談にあたり日本政府が懸念していたのがトランプ米大統領のディール(取引)外交だ。防衛費のさらなる増額を迫られ、追加関税で脅しをかけられる懸念があった。用意周到に会談に臨んだ首相は、大規模な対米投資を打ち出し、日米関係の重要性を説いた。一定の理解は得られ、今回の会談では無謀な要求を回避した。 約30分の会談で、トランプ氏が納得したようにうなずいたシーンが数回あった。3年前に銃撃されて亡くなった安倍晋三元首相の貢献と、積極的な対米投資に首相が言及したときだ。 「日本と米国は今、非常に緊密な関係にある。第一次トランプ政権において、大統領閣下と安倍氏の2人によってその礎が築かれた」 首相は安倍氏と自民党総裁選で何度も争い、政治信条も異なった。首相はそんな政敵を称賛し、「今後も大統領閣下と私が力を合わせ、世界が平和になるように努めたい」と語った。 トランプ氏はうなずき「シンゾー(安倍氏)はとても素晴らしい友人だった。あんなことになりとても悲しい」と悲痛な表情を浮かべた。 「そしてあなたは安倍元首相の素晴らしい友人だった」 安倍氏とトランプ氏は14回にわたる首脳会談ややゴルフで盟友関係を築き、対中戦略でも足並みをそろえた。安倍氏を持ち上げ、自身に親近感を抱いてほしいという首相の思惑は明らかだが、近しい関係を築きたいというトランプ氏の姿勢は引き出した。 首相は会談に備え、週末も含めて関係省庁幹部や秘書官らと問答の打ち合わせを重ねてきた。特にこだわりを見せたのが対米投資実績のアピールだった。トランプ氏が、中国への追加関税など経済関係を利用したディールを仕掛けているからだ。そこで、首相は会談でこう強調した。 「日本の米国に対する投資はこの5年間連続して世界一位だ。これから先、もっと伸ばしていきたい」 さらに隠し玉があった。「まだ発表していないが…」と前置きし「いすゞ自動車が近々、米国に工場を建設し、多くの雇用を作ることを決めた」と伝えた。トヨタ自動車の米工場拡張計画にも言及した。 ただ、ビジネスマンのトランプ氏は、もろ手を挙げて喜んだりはしない。満足そうに「ありがとう」と応じながらも、クギを刺した。
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