社説:尹・韓国大統領を逮捕 混乱の収拾につなげねば

社説

毎日新聞 2025/1/16 東京朝刊 833文字

前代未聞の混乱を早期に収束させることこそが政治の責任だ。社会の分断をあおるような振る舞いは慎むべきである。

韓国の捜査当局が尹錫悦(ユンソンニョル)大統領を逮捕した。「非常戒厳」を宣言して国会を機能停止に追い込もうとするなど、内乱を主導した疑いが持たれている。現職大統領が身柄を拘束されるのは初めてだ。

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国会による尹氏の弾劾を認めるかどうかを判断する憲法裁判所の審理も始まった。逮捕で山場を迎えた捜査と併せ、戒厳令という時代錯誤の行動の背景を解明できるかが注目される。

尹氏が逮捕状執行に応じたことで、捜査当局と大統領警護庁が衝突するという最悪の事態は避けられた。だが大統領公邸前では、与野党それぞれの支持者が集会を開いてにらみ合った。

懸念されるのは、韓国社会の分断がさらに悪化することだ。

尹氏は、逮捕後に公開した動画メッセージで「不法で無効な手続きだ」と訴えた。与党・国民の力の報道官も、捜査当局を最大野党・共に民主党の「下請け機関に転落した」と批判した。

一方、国会で過半数の議席を持つ共に民主党は、大統領代行の首相も弾劾して職務停止に追い込んだ。その後に代行となった副首相に対しても、尹氏の逮捕に消極的であることなどを理由に弾劾訴追を示唆してきた。

分断の背景には、韓国の経済成長や民主化を巡る根深い対立がある。この20年ほどは、経済的な格差拡大もあいまって極めて深刻な状況に陥っている。

韓国を取り巻く国際情勢は厳しさを増している。

核・ミサイル開発を加速する北朝鮮は、ウクライナ戦争への派兵でロシアと急接近している。東・南シナ海での中国の威圧的な行動も続く。

東アジアの平和と安定を維持するには日米韓の連携が不可欠だ。自国第一を掲げる米国のトランプ新政権発足を控え、韓国の政治混乱が長引けば日本にも影響が及びかねない。

韓国の与野党が避けなければならないのは、党利党略に走って尹氏の逮捕を政争の具とすることだ。政治を正常化する行動が双方に求められる。

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