プレミアリーグ第21節。ブライトン(11位)にとって後半戦の3戦目はアウェーでのイプスウィッチ(17位)戦だった。
イプスウィッチ戦で先制ゴールを決めた三笘薫(ブライトン) photo by PA Image/AFLO
今季のブライトンは、開幕してしばらくの間は好調だった。上々の滑り出しで、新監督のファビアン・ハーツラーは8月の月間最優秀監督に選ばれもした。1-2で惜敗した11月2日のリバプール戦、2-1で勝利した11月9日のマンチェスター・シティ戦を見る限り、今季こそはチャンピオンズリーグ(CL)出場圏内(4位以内)に入りそうなムードを漂わせていた。
ところが11月29日(第13節)、最下位のサウサンプトンに引き分けたのを皮切りに8試合連続で白星から見放されることになった(6分2敗)。この間、上位との対戦はアーセナル戦のみ。中位以下のチームを相手に、試合を優勢に進めながら勝利を逃すというパターンを繰り返した。
なかでも象徴的だった試合が、12月8日(第15節)のレスター戦だ。下位を彷徨うレスター相手に、ブライトンは後半44分まで順当に2-1とリードしていた。ところがここでハーツラー監督は三笘薫を下げ、ブラジル人CBのイゴールを投入する。布陣を4-2-3-1から5バックに変更し、逃げきりを図る作戦に出た。
前節(第14節)、格下のフラム相手に1-3で敗れ、CL出場圏から脱落していたブライトン。絶対に負けられないという気持ちが、サッカーをうしろ向きにさせたと考えるのが自然だった。
ところがその2分後、後半のアディショナルタイムに入ったところで、ブライトンはレスターに同点弾を浴びてしまう。
ブライトンがそこから6試合、勝利から見放された理由の一端を、その弱気な采配に垣間見ることができた。攻撃的サッカーで押し通した前任のロベルト・デ・ゼルビ監督なら、それはなかったのではないかと言いたくなる失速劇でもあった。
三笘は昨季同様、スタメンを張り続けた。GKバルト・フェルブルッヘン(オランダ代表)に次ぐ出場時間を誇った。交代でベンチに下がった試合は21試合中9試合。そのほとんどが後半40分過ぎという最終盤だった。スタメンを外れた試合は3試合。第8節(10月19日)のニューカッスル戦、第19節(12月30日)のアストン・ビラ戦、第20節(1月4日)のアーセナル戦の3試合になる。
【三笘にいいタイミングでボールが収まらない】
つまり、この日のイプスウィッチ戦は、三笘にとって3試合ぶりとなる先発出場だった。
開幕からスタメンを張り続けてきた選手が、ここ2試合、スタメンを外れた。その意味をどう捉えるかだが、この日フル出場したことを踏まえると、監督からの評価が下がったと深刻に考えるより、休養と見たほうが自然だろう。
今季のフルタイム出場はこれが12試合目となる。アタッカーでこれほど長い出場時間を誇る選手も珍しい。だがその弊害なのか、対峙する相手のSBに1対1を挑む機会は確実に減った。ウインガーとしての評価を左右する、縦突破を決める回数も当然減った。トライする数が減れば、決まる回数も減る。
もっともその前に、三笘にいいタイミングでボールが収まる機会が減っていたことも事実。ドリブル&フェインを軸とするウイングプレーに移行しにくくなっていた。昨季と比較すれば活躍の機会そのものが減っていた。つまり、チームとしての問題でもあったのだ。
並の選手はそこで腐るだろう。平常心を失い調子を崩していきがちだが、三笘の精神に乱れはなかった。相手ボールに転じてもマイボール時と変わらぬ反応で、プレッシングに貢献。これでは、見せ場は減っても総合的な評価は下がりにくい。
この日もブライトンは、17位のイプスウィッチ相手に苦戦した。ボール支配率こそ6対4で勝ったが、ボールを失った瞬間、相手に有効な反撃を許すだけの余力を与えていた。
三笘も見せ場をつくれずにいた。ボールに触れる機会そのものも決して多いとは言えなかった。危ういパターンにはまりそうな雰囲気のまま、後半も序盤が過ぎようとしていた。
だが、三笘はそれでもヒーローに輝いた。後半14分、右CBヤン・ポール・ファン・ヘッケ(オランダ代表)、右SBジョエル・フェルトマン(元オランダ代表)、MFヤシン・アヤリ(スウェーデン代表)を経由したボールが右サイドを回り、MFマット・オライリー(デンマーク代表)の足もとに入った。シュートかと思われた次の瞬間、脇で構える三笘にラストパスが回ってきた。
それは、三笘にとってのプレミアリーグ通算14点目で、岡崎慎司の日本人最多記録に並ぶゴールでもあった。岡崎の出場試合数114に対し三笘は73。ウインガーであることを踏まえると、その価値にさらに高まる。
縦突破を何度決めるかをウインガーとしての価値だと先述したが、アタッカーとしての価値を決めるのはゴール数だ。ウイング兼ストライカーの時代を迎えた現在、ウインガーとして何点取るかは、選手としての偉大さを推し量るとき、重要な要素になっている。
クリスティアーノ・ロナウド、リオネル・メッシ。現在で言えばモハメド・サラー、ヴィニシウス・ジュニールこそが、スター選手の王道だとすれば、三笘もその系譜に名を連ねることになる。
試合の話に戻れば、イプスウィッチはブライトンに対し5バックで臨みながら、三笘に先制点を許した。思いどおりの展開に持ち込めず、試合の途中から急遽、攻撃的な前掛かりのサッカーになった。バタつくのは当然だった。ブライトンはその矛盾を突き、後半37分、ジョルジニオ・ルター(元U-21フランス代表)が追加点を決め、開幕戦(エバートン戦)以来の完封勝利を収めた。
ただし、今後がバラ色と言うわけではない。ボールがトップに収まりにくいという、森保ジャパンとも似た傾向を抱えている。三笘とブライトンの今後に目を凝らしたい。