プロ野球・ロッテからポスティングシステムを使って大リーグへの移籍を目指していた佐々木朗希投手がドジャースと契約することで合意したと自身のSNSで発表しました。
佐々木投手はおととしのWBC=ワールド・ベースボール・クラシックでともにプレーした大谷翔平選手や山本由伸投手とチームメートになります。
高校卒業後にプロ野球のロッテに入団した23歳の佐々木投手は、3年目の2022年には史上最年少で完全試合を達成したほか、おととしはプロ野球の日本選手最速に並ぶ165キロをマークし、昨シーズンは自身初のふた桁となる、10勝を挙げました。昨シーズン終了後にロッテがポスティングシステムを使った大リーグ挑戦を容認したため、全30球団のうち20球団による激しい争奪戦となっていました。25歳未満の佐々木投手の契約は大リーグの労使協定で契約金や年俸の額が制限されるマイナー契約に限られていて「国際ボーナスプール」と呼ばれる毎年決まった資金の中で契約金をまかなうことになっていました。
この資金を使った契約は今月15日に解禁され、佐々木投手は17日、ドジャースとの契約に合意したと自身のSNSで発表しました。
佐々木投手は「とても難しい決断でしたが、野球人生を終えて後で振り返ったときに、正しい決断だったと思えるよう頑張ります」などと投稿しています。
昨シーズンワールドシリーズを制覇したドジャースには、“投打の二刀流”の復活を目指す大谷選手に加え、2年目のシーズンに臨む山本投手が所属しています。
おととしのWBC=ワールド・ベースボール・クラシックでもともに戦った日本を代表する3人の選手がチームメートとなり、球団初のワールドシリーズ連覇を目指すことになります。
佐々木朗希投手がドジャースとの契約合意を発表したインスタグラムの投稿の全文です。
「ロサンゼルスドジャースとマイナー契約を結ばせていただくことになりました。とても難しい決断でしたが、野球人生を終えて後で振り返ったときに、正しい決断だったと思えるよう頑張ります。入団会見では、ここまで支えていただいたすべてのみなさまに感謝しながら、ドジャースのユニフォームに袖を通したいと思います」
佐々木朗希投手は岩手県陸前高田市出身の23歳。
1メートル92センチの長身で左足を高々とあげる投球フォームから最速165キロのストレートと落差の大きいフォークボールを持ち味とする右投げのピッチャーで「世界で最も才能のあるピッチャーの1人」と評価されています。
大船渡高校時代(2019年)
大船渡高校の3年生だった2019年に163キロのストレートを投げて注目され、その年の夏の地方大会決勝で登板の機会がなく敗れて甲子園出場を逃した際には、それまでの疲労が考慮され佐々木投手の将来を見据えた中で登板が回避されたことをめぐって大きな論争が巻き起こりました。
ロッテ入団会見(前列・中央が佐々木投手/2019年)
ドラフト会議では4球団から1位で指名されてロッテに入団し、プロ1年目の2020年には1軍での登板はありませんでしたが、当時、投手コーチだった吉井理人監督の指導のもと1軍の練習に参加しながら調整を行いました。
そして、2年目に1軍登板を果たして3勝をマークすると、3年目に史上16人目の完全試合を達成しました。
完全試合達成(2022年4月10日)
当時20歳での完全試合は史上最年少で、この試合ではプロ野球記録となる13者連続の三振を奪ったほか、プロ野球記録に並ぶ1試合19奪三振と記録ずくめとなりました。
この年は9勝4敗、防御率2.02、奪三振数は173個と飛躍のシーズンでした。
WBC日本代表(2023年3月)
続く4年目はWBC=ワールド・ベースボール・クラシックに出場し日本代表の優勝に貢献したほか、大谷翔平選手が日本ハム時代にマークしたプロ野球の日本選手最速に並ぶ165キロをマークしました。5年目の昨シーズン開幕前に将来的な大リーグ挑戦を表明し、先発陣の中心としてシーズンを通しての活躍を誓いました。
5月から6月にかけて右腕のコンディション不良などで2回にわたって登録を抹消されながらも勝ち星を重ね、昨シーズンは18試合に先発登板し、10勝5敗と、自身初のふた桁勝利をマークしました。
初の2桁勝利(2024年10月1日)
プロ野球での通算成績は64試合で29勝15敗、防御率は2.10ですが、5年間で規定投球回には一度も届きませんでした。ただ、佐々木投手が登板する試合には、大リーグのスカウトのほか、編成部門の幹部が足を運ぶなど動向が注目されていて、ロッテは去年11月、ポスティングシステムを使った大リーグ挑戦を容認しました。
佐々木投手がポスティングを申請すると、大リーグの30球団のうち20球団が興味を示すなど激しい獲得競争となり、将来性豊かな23歳の移籍先はアメリカでも関心を集めていました。
佐々木朗希投手の大リーグ移籍は、これまでに例を見ない経過をたどりました。25歳未満の佐々木投手は大リーグの労使協定によって契約金や年俸が大きく制限されるため、大リーグの球団は資金力に関係なく獲得に名乗りを上げることができました。このため「世界で最も才能のあるピッチャーの1人」と将来性を高く評価される佐々木投手の去就をめぐっては、ロッテがポスティングによる移籍を認める前から大リーグで高い関心を集めていました。その獲得競争が過熱する中で、移籍先の有力な候補として名前が挙がっていたドジャースとの間に本来禁止されている事前交渉、いわゆる「タンパリング」があり、事実上、入団が決まっているのではないかという疑惑がアメリカメディアで報じられ、大リーグ機構が調査に乗り出す騒ぎとなりました。大リーグ機構の調査では結果的に「タンパリングはなかった」と結論づけられたものの、大リーグ機構のマンフレッドコミッショナーは佐々木投手の契約は契約金に使われる各球団の「国際ボーナスプール」がリセットされる「1月以降になる」と発言し、すべての球団に契約の可能性があることを強調しました。当時、「国際ボーナスプール」の資金を多く残していたドジャースが、契約に有利になるのではないかという見方を否定する狙いがあったとみられる、コミッショナーによる異例の発言でした。日本ではロッテがポスティングによる大リーグ移籍を容認すると、佐々木投手の高い将来性は認めながらもプロ野球で1度も規定投球回に達していないなどの実績面から賛否両論がありました。それでも各球団との交渉が解禁されると、全30球団のうち20球団から佐々木投手との面談を求める資料が代理人のもとに届きました。資料は中心選手からのメッセージが入った映像や、佐々木投手の経歴などについて1冊の本にまとめた球団もあったということで、代理人のウルフ氏は「“朗希映画祭”のようだった。マイナー契約の立場だが、彼は望む場所どこにでも行くことができる。こんな交渉は初めてだ」と舌を巻いていました。佐々木投手が実際に面談したのは8球団程度と伝えられていて、その面談に向けて、佐々木投手からいくつかの要望があったといいます。公平性を期すため、最初の面談はすべてロサンゼルスの代理人事務所で2時間以内で実施し、選手は同席しないことでした。また、各球団に対して佐々木投手が特に強い関心を寄せているという「投手の育成システム」に関する“宿題”が与えられ、面談の場で説明をする時間があったということです。そして、移籍先候補の球団との2回目の面談では、選手が同席したチームもあったとアメリカメディアは伝えていて、実際にパドレスやブルージェイズの球団施設を訪れたとも報じるなど移籍先をめぐる報道も加熱していました。
「世界一の投手」を目指す23歳の若者の移籍劇はその高い将来性への期待感を背景に最後まで異例の経過をたどる結果となりました。
ドジャースは、ロサンゼルスに本拠地を置くナショナルリーグ西部地区のチームで、1884年に創設され140年以上の歴史がある大リーグ屈指の人気球団です。1947年にはアフリカ系アメリカ人で初めての大リーガー、ジャッキー・ロビンソンがデビューするなど、大リーグの長い歴史の中でも大きな役割を果たしてきました。日本選手も野茂英雄さんや黒田博樹さんなどこれまで多くの選手が所属し、昨シーズンからは大谷翔平選手と山本由伸投手がプレーし、日本のファンにとってもなじみの深い球団です。現在のチームはいずれもシーズンMVP=最優秀選手の受賞経験のある、大谷選手とベッツ選手、フリーマン選手の「MVPトリオ」が打線の中心で昨シーズンは4年ぶり8回目のワールドシリーズ制覇を果たしました。一方で、開幕投手を務めたグラスナウ投手や、サイ・ヤング賞を3回受賞しているカーショー投手など先発投手陣にけが人が相次ぎました。ポストシーズンでは先発ローテーションが不足する苦しい戦いを余儀なくされたため、このオフはサイ・ヤング賞を2回受賞している左腕のスネル投手と契約するなど補強に力を入れてきました。
さらに今シーズンは大谷選手が2年ぶりのピッチャーとしての復帰を目指していることもあり、ドジャースの首脳陣は先発投手陣の負担を軽減するため大リーグで通例となっている5人ではなく6人の先発ローテーションとする方針を示しています。
「ポスティングシステム」は、海外も含めて自由に移籍先を探せるFA=フリーエージェントの権利を持たない選手が大リーグに移籍できるようにするため大リーグとプロ野球の間で取り決められた制度です。この制度では、プロ野球の球団が選手の大リーグ移籍を認めた上で、NPB=日本野球機構に申請し、大リーグ機構が、NPBから通知を受けると全30球団にポスティングの申請があったことを伝えます。その後45日間の期限内に獲得を希望する大リーグのすべての球団が選手と直接交渉することができ、交渉が成立して、契約に至った場合はプロ野球の球団に譲渡金が支払われます。一方で、大リーグ機構と大リーグの選手会が結んでいる労使協定では、▽アメリカ、カナダそれにプエルトリコを除く、国や地域の25歳未満の選手▽プロのリーグでの所属が6年未満の選手が大リーグの球団と契約する際には、使える金額のベースとして500万ドル前後の上限が設けられ、マイナー契約しか結べないと定められています。これまで25歳以下でポスティングシステムを使ってプロ野球から大リーグに移籍したのは2017年に当時、23歳でエンジェルスと契約した大谷翔平選手ただ1人で、当時は今と制度が異なり、日本の球団側に譲渡金を設定する権利があったため、日本ハムには上限となる22億円余りが支払われました。大谷選手も当初はマイナー契約を結びましたが、シーズン開幕前に大リーグ契約に切り替わりました。しかし、現在の制度で佐々木朗希投手が結ぶマイナー契約では契約金の額に応じて譲渡金が設定されるため、ロッテに入る譲渡金も大幅に制限されます。
大リーグの試合に出るにはメジャー契約を結ぶ必要があり各球団はメジャー契約を結べる選手に40人という上限がありますが、けが人リスト入りや、契約解除などで40人の枠に空きができれば、佐々木投手がメジャー契約に切り替えることも可能となり、大リーグの試合に出場できることになります。