『仮装大賞』は視聴者参加番組だと思ってない――全100回のレジェンドスタッフ・神戸文彦氏が語る出場者との特殊な関係性

1979年にスタートした『全日本仮装大賞』が、きょう13日(19:00~)の放送でついに第100回大会を迎える。この超長寿国民的番組に第1回放送から携わるのが、今回も監修として参加する神戸文彦氏(84)だ。

これまでのべ4,157組が出場してきたが、「視聴者参加番組だと思ってない」という神戸氏。出場者と番組が築いてきた特殊な関係性からその真意を語るほか、司会の萩本欽一のすごさ、香取慎吾と相性が良い理由、そして今後の展望など、たっぷりと話を聞いた――。

  • 第1回大会優勝作品「蒸気機関車」と萩本欽一 (C)日テレ

「この番組を作ったのは素人だ」

――『仮装大賞』は最初、『NHK紅白歌合戦』の裏で放送されたそうですね。

僕もまだ37~38歳でツッパってたからね(笑)。『紅白』の裏でバカみたいなことをやりたかったんです。だから第1回は、出演者はもちろん、審査員もお客さんも仮装したんです。でも仮装といっても、どういうふうにやればいいか、僕らも漠然とは思い描いているんだけどただ仮装をどうやっていいのか、ハッキリ発見できていなかったんですよ。

予選に行ってもネット局の方に「こういう人を集めてくれ」って説明できず、ネット局の方々を悩ませていました。そうすると、女装しただけとか、ドラキュラとか、いまのハロウィンのような、人間が人間を仮装する人ばかりが来たんです。

――それが変わったきっかけは?

第1回で優勝した「蒸気機関車」ですね。タバコで煙を表現した。「これだ!」って思いましたよ。萩本さんもよくおっしゃっているけど、「この番組を作ったのは素人だ」と。その先駆者です。

でも視聴率は4.8%(世帯、ビデオリサーチ調べ・関東地区 ※以下同)で玉砕しました。2回目という話はなかったんだけど、悔しいから「蒸気機関車」のVTRをダビングして各地方局に送ったんです。そしたら「こういうのが欲しいんだ」ってなって、みんなこの番組の面白さを分かってくれた。

――2回目は翌年の5月放送ですね。

4.8%じゃやらせてくれないだろうとは思ったんだけど、会社にお願いしたら、「じゃあ、あと1回やってみろ」ってことになったんです。ただ『仮装大賞』は収録に3日必要なんですよ。本番前日にリハーサル、本番当日、そして翌日にお見送り。それができるのは年末年始のほか、5月の連休なんです。それでやってみたら。作品も良くなって、数字も一気に14.8%まで上がったんです。

――最近は視聴者参加番組が少なくなっています。

僕はね、『仮装大賞』をただの視聴者参加番組だとは思ってないんですよ。「あなたもスタッフにならない?」という感じ。つまり、出場者の方々と一緒に番組を作っているという感覚です。出場者も自分で番組を作っている自負があるんです。だから、生意気にもなります(笑)。「僕は(出番が)何番目になるんですか?」とか聞いてきたりね。(放送されるのは)20時頃が一番注目されやすいとか知っているんです。

  • 神戸文彦氏

「上げてあげてよ~」に抗議の電話がくる時代

――順番はどのように決めているんですか?

第1回から構成作家として参加しているWAHAHA本舗の喰始に決めてもらってます。そもそもこの企画を持ってきたのが喰始で、ずっと彼のセンスでやってます。

――喰さんは今『仮装大賞』以外、テレビから離れていますけど、かつては神戸さんが担当されていた『巨泉・前武ゲバゲバ90分!』や『カリキュラマシーン』(いずれも日本テレビ)などにも参加されていたんですよね。

そう。喰始は、僕のギャグの先生なんです。永六輔さんのグループにいて『ゲバゲバ』でギャグを書いてたんですよ。すごくセンスが良かった。そのときからずっと一緒にやってきた。欽ちゃんドラマもやったし、『仮装大賞』ももちろん一緒。ただ彼は『仮装大賞』でも、もっとバカをやりたいみたいですけどね(笑)

―― 一般の方が出場するコンテスト番組として工夫したところは?

『仮装大賞』と僕は、NHKの『のど自慢』からずいぶん学んだんですよ。順番や不合格の鐘の鳴らし方を工夫して、不合格になっても不愉快な気持ちに全然ならないようにしている。そこは『仮装大賞』も大事にしてます。最近は不合格が少なくなってきたけどね。だけど、難しいんですよ。昔は欽ちゃんが「上げてあげてよ~」って審査員にお願いするのが定番だったけど、今それをすると抗議の電話がかかってきちゃうからね。

――えーー!? あれがいいのに!

番組中に1~2回くらいならいいんでしょうけど、4つもあるなってことなんでしょう。最初から4回しようと思ってるわけじゃないですからねえ(笑)

――やはり萩本さんと一般の人たちとの絡みが番組の見どころの一つだと思います。

萩本さんも最初はどうやっていいかお考えになったと思うんですよ。素人を使う天才といっても、萩本さんがそんなにたくさん絡めるわけではない。本当はもっと素人を扱いたいと思ってたと思うんだけど、『仮装大賞』はコンテンストでもあるから、そこの部分を番組としては触ってほしくないわけなんです。だって、100万円がかかってるわけで、審査に影響したら大変ですから。だから最初は悩まれたんじゃないですかね。

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――神戸さんは地方予選にも行かれるのですか?

もちろん行きます。札幌、仙台、東京、新潟、長野、静岡、名古屋、福井、大阪、広島、高松、福岡の12か所、基本的には全部行きます。僕は出場者たちに「鬼の神戸」なんて言われているんですよ。でも、一番会いたがってもくれるんです。なぜなら、一番厳しいことを言うから(笑)

最近は、いいか悪いか分からないけどビデオ応募というのもあるんです。でも講評を電話でしても、電話だと通じないんですよね。対面だと「ここをこうしたほうがいい」って言った時の顔が曇ったか、ニコッとしたかで真意が伝わったかが分かるんですけど、電話だと分からないですからね。

――出場者にアドバイスもされるんですね。

各組に1人必ずスタッフが付き、5組ほど責任を持って担当します。でも、難しいのはどこまでアドバイスを言っていいかということ。言いすぎてはダメだから。例えば夕焼けを表現するときに、テレビ側が手伝って照明を使えばキレイにできてしまうけど、それはやっちゃいけない。彼らは夕焼けを仮装で表現するわけだから。

あと、素人は「日記」みたいになりがちなんですよ。極端にいうと、「サーフィン」を仮装する演目だとすると、朝起きて、弁当つくって、海行って……みたいに1日を作っちゃう。「君はお弁当を見せたいわけじゃないだろ?」って、その作品の一番いいところを探してあげて、そこだけを見せた方がいいと経験値を生かして、仮装本部スタッフの平井(秀和)、山本(修一)、小室(圭子)、永井(大輔)などが助言するんです。

――なるほど。やりすぎてしまうんですね。

やっぱり省略が苦手なんです。だから損することをたくさんしちゃう。プロは省略が上手いんです。だって欽ちゃんが舞台で「海だ!」って言えばそれだけで海になるじゃないですか(笑)

スタッフは何も得しないのに親身になってやってますよ。担当した組が100万円獲っても何ももらえるわけじゃない。でも、彼らは番組が本当に好きなんですよ。そうでないとできない。出場者と一緒になってやっているのが好きなんでしょうね。

――合格の基準は?

基準が分かったら苦労しないですよ(笑)。鶴間政行という作家がうまいことを言うんですけど、「演技して3つ驚かせなさい」と。「あ、上手いね」でもいいし、「いいグループだね」でもいい。それで10点。それから「そのアイデアいいね!」で13点になる。そこからもう1個心を動かすことができたら合格ラインになるんです。

  • 最多出場記録(今回で53回目)を持つ「仮装名物おじさん」三井勝彦さん (C)日テレ

出場者たちが番組の方向を決めてくれた

――『仮装大賞』には初期の頃から参加されている常連さんもたくさんいらっしゃいますね。

例えば常連の三井(勝彦)くんの作品のように傾向が似てしまう、その場合どのように評価するか、意見が分かれますね。それを嫌がる人もいるんだけど、やっぱりリピーターがいないとこの番組は成立しないですよ。

第3回を正月にやった後、当時のプロデューサーの五歩一勇とハワイに行ったんです。そのとき、「リピーターを作らなきゃ、続かねえぞ」って話して、ハワイから出場者全員に年賀状を書いたんです。そしたら次も来てくれた。やっぱり常連さんはツボを知ってますから。それを初めて出る人に教えるのは難しいんです。

予選で何度落ちても、常連さんは予選に来てくれる。彼らは「スタッフに会いに来た」って言うんですよ。なぜなら、自分がスタッフだと思ってるからね。

――『仮装大賞』は、子どもからお年寄りまで年齢も様々で、個人でもグループでも参加できるというのが特徴だと思います。

それどころかプロのタレントさんも出られますからね。あらゆる人が出られる。萩本さん自体もそういう人だから。全く自由にどんな人とも普通に付き合えますからね。

――作品も様々な題材がありますね。

そう、何でもあり。ただ唯一ダメなのが「汚い」もの。ゴールデンタイムの番組ですから、観ていて人を不愉快にするものはダメなんです。

前回優勝したのは、「TikTok」をモチーフに仮装した父娘だったけど、僕は「TikTok」なんて分からないから、作品の良し悪しを若いスタッフに後は任せました。だけど、あの父娘が終わった後、手をつないで帰ったんです。その姿に感激したんです。

――素敵な親子でしたね。

『仮装大賞』は、最初にこういうものを作ろうって考えたのは日テレと萩本さんでしたけど、その後は運がいいんです。出場者が勝手に流れを作ってくれる。例えば、第1回に「蒸気機関車」が出てきて見本を見せてくれた仙台の関根さん。その次に先生が卒業記念に30人くらい引き連れて「花咲か爺さん」をやって、そこから団体が出るようになった。

その後は家族で子どもたちと一緒に出るようにもなった川上さん一家、松田さん一家。まだまだいっぱいいるけど全ての方々に感謝しています。僕たちも一生懸命考えているんだけど、出場者の人たちが番組の方向を決めてくれているんです。

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――そもそも神戸さんが萩本さんと出会ったのは?

昭和44(1969)年、僕はすごく古いですよ。日本テレビに井原高忠という大プロデューサーがいらして、彼が欽ちゃんと仲良くて『ゲバゲバ90分』とかに出てもらったりしていたんです。僕は『ゲバゲバ』のディレクターとしてをた齋藤太朗の下でやっていたので、そこからの付き合いですね。

――萩本さんのすごさはたくさんあると思いますけど、特に感じるのはどんなところですか?

萩本さんは「テレビの先がまだあるって思わせてくれるのが『仮装大賞』だ」ってうれしいことを言ってくださるんだけど、あの方こそ、全部「先」なんですよ。僕は欽ちゃんとドラマをやったことがあるんです。「欽曜ドラマ」っていって。そのときに欽ちゃんが言ったのが「ドラマは全部“横”だから“縦”にしたい」って。部屋の中を平面に見せるのではなく、1階から3階までつくって階段で上り下りして縦に見せる。ドラマでクレーンを使ったのは初めてだと思います。それが『Oh!階段家族』というドラマ。発想が全然違うんです。

それからね、“意地悪”と“優しい”がいっぱいある。意地悪っていうと言い方は悪いけど、厳しい。愛情がなかったら言ってくれない。

――反省会が長いことでも有名ですよね。

そう言われてますけど、それを「反省会」ってとる人たちはダメなんですよ。欽ちゃんは言うんです。「神戸さん、みんなが帰りそびれるくらい帰れない番組だったら当たるよ」と。収録が終わった後、スタッフも出場者もみんながしゃべり合いたくなるような雰囲気を作った番組は勝つんですよ。

――その萩本さんが、第98回で「今回で私、この番組終わり」と勇退宣言をされました。その時はどう思いましたか?

辞めるとは言ったけど、(次の放送まで)1年あるから説得する猶予はあると思ってました。ただ、本当に欽ちゃんが辞めるんだったら、乃木将軍じゃないですけど、僕も一緒に辞めようと思ってましたよ。古い男とお思いでしょうが…。だって、第1回からずっと一緒にやってきましたから。

  • 萩本欽一(左)と香取慎吾 (C)日テレ

坂上二郎さんと香取慎吾の共通点

――2002年から『仮装大賞』の司会に香取慎吾さんが加わりました。その経緯は?

その頃、萩本さんが疲れちゃったんです。それで辞める辞めないみたいなことになった。日テレ側はじゃあ、パートナーをつけましょうと。そしたら、相手は香取慎吾くんがいいんじゃないかと、編成にいた土屋(敏男)と当時のディレクター・古野千秋が言ってきてくれた。萩本さんも「慎吾ならいい」って言ったんじゃないのかな。

――2人のコンビはいかがですか?

いいでしょう! 確か昔、萩本さんが(坂上)二郎さんとなぜやってこれたかって言うと、欽ちゃんが何かツッコんでも、二郎さんは「そりゃできないよ」って絶対に言わないからだというんです。どうにかしてやろうとする。「飛んでみなよ」って言われて「飛びます、飛びます!」っていうギャグが生まれたわけですよ。「飛べるわけねえじゃないか」って言ったら終わっちゃう。慎吾くんも「ダメ」って言わないんですよね。「できないよ、欽ちゃん」って絶対言わない。

101回以降も「まだ沈まないだろう」

――『仮装大賞』は今回で第100回を迎えました。その後の展開はお考えになっていますか。

これからはタイトルに「第101回」みたいに回数を入れるのをやめようかなとかいろいろ思ったりはしますけど、それは僕が考えるべきことじゃないでしょうね。現在の徳永(清孝)ディレクターたちが考えることでしょう。今年で85歳だしね。それに番組の方向は出場者たちが示してくれますから。彼らはまだ沈まないだろうと思うんですよ。今回も新鮮な作品をつくってくれています。だから僕も死にません。

最近は暴露したり言い合ったりする刺激的な番組が多い中で、人気者が出るわけでもないこんなに地味な番組を長く続けてこられたことは、テレビ局に感謝しています。本当にすごいことだと思いますね。

「あんな時代もあったねと」と中島みゆきが「時代」の中で歌ってくれた。今思うんですよ。若くして死んだこの番組の言い出しっぺプロデューサー・五歩一勇に「起きろ! お前死んでる場合じゃない。ようやく100回を迎えて、酒を呑んで話そうじゃないか」って。少し興奮しすぎですけどね(笑)

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