TikTok、米国で利用できなくなる。アプリストアからも姿を消す

インターネット史上初めて、米国政府が主要なグローバル・ソーシャルメディア・プラットフォームを公式に禁止した。ロシアや中国のような権威主義体制の“仲間入り”をした格好だ。18日(米国時間)、TikTokは正式にサービスを停止。米国からアプリにアクセスしようとすると、「TikTokは現在利用できません」というメッセージが表示される。

メッセージは、「幸いにも、トランプ次期大統領は就任後、TikTokを復活させるための解決策についてわたしたちと協議する意向を示してくださいました」と続く。「どうぞご期待ください!」

アップル、グーグル、オラクルへの影響

これは、TikTokの中国の親会社バイトダンス(字節跳動)に対し、アプリの米国事業を売却するか全国的な禁止措置を受けるかの選択を迫った、昨年議会で可決された法案の帰結である。しかし、定期的にインターネット検閲を実施している国々とは異なり、米国には国民が特定のアプリやウェブサイトにアクセスできないようにする集中的なインフラは存在しない。

その代わり、この法律はアップルグーグルに対し、アプリストアからTikTokを削除するか、数百万ドルの罰金を支払うかの選択を迫った。両社は18日の時点で、TikTokとその親会社バイトダンス(字節跳動)が所有するほかのアプリを削除したとみられる。グーグルとアップルはコメント要請に対し即座の回答を控えた。

同法はまた、企業がTikTokにデータホスティングサービスを提供することも禁じている。『The Information』の報道によると、TikTokを最大級のクラウドコンピューティング顧客に持つオラクルは、土曜日に米国TikTokのデータをホストするサーバーのシャットダウンを従業員に指示し始めたという。オラクルはコメント要請に対し、即座の回答を控えた。

トランプに委ねられた法の執行

昨年5月、TikTokと米国のクリエイターグループは、この法律が合衆国憲法修正第1条に違反するとして、施行の差し止めを求めて提訴した。最高裁は1月17日、全会一致でこれらの主張を退け、この条項は「十分な根拠のある安全保障上の懸念」に基づくものだと結論づけた。

「これは明らかに憲法修正第1条違反です」と、オンライン言論問題を専門とするスタンフォード大学ロースクール教授のイヴリン・ドゥエクは指摘する。「残念ながら最高裁判事9人全員がわたしと異なる見解を示しており、重要な立場にある人々は彼らの意見に従うでしょう。しかし、ここ数日、歴代・次期大統領や議員たちが即時サービス停止の必要性について後退する姿勢を見せている状況では、国家安全保障という正当化の根拠を真剣に受け止めるのは難しいですね」

期限まで数日を残して、バイデン大統領は法律の執行を次期トランプ政権に委ねる姿勢を示唆した。この動きによってアプリの運命は宙に浮いた状態となった。TikTokはバイデン政権に対し、法律を執行しないという明確な保証を求めた。これに対しバイデン政権は、トランプ次期大統領に委ねる姿勢を貫いた

90日間の猶予は可能なのか

テック業界で働く人たちに人気の匿名メッセージングアプリ「Blind」へのTikTokの社員たちの投稿を見ると、来月以降の雇用について不安を示す人がいる一方、通常通り業務を続ける人もいた。「みなさんのマネージャーも、禁止措置には一切触れずに来週の新規プロジェクトのミーティングを予定していますか?」とあるユーザーが投稿すると、「来週、2025年の戦略会議がありますよ」と別のユーザーが返信。「言われた通りにやっているだけです。それが何となく、心の支えになっています」

トランプ次期大統領は第一期目にTikTokの禁止を試みたが、その後プラットフォーム上で多くのフォロワーを獲得したことで姿勢を転換した。18日トランプは、TikTokの禁止措置に90日間の猶予を与える大統領令を月曜日に発令する「可能性が高い」とした。NBCニュースのインタビューで「それは確実に、わたしたちが検討している選択肢のひとつです」と語った

しかし、“TikTok禁止法”自体がトランプによる禁止措置の一時的な停止を技術的に制限している。この新法は、当事者間の「法的拘束力のある合意」など、売却に向けた「重要な進展」の証拠がある場合に限り、大統領による90日間の延長を認めている。

TikTokの買収には、不動産王で元ロサンゼルス・ドジャースオーナーのフランク・マコートを含む、テック業界やビジネス界の著名人が関心を示している。CNBCによると、AI検索スタートアップの「Perplexity」は18日、TikTokとの新会社設立を提案する入札をしたという。

『Bloomberg』の報道によると、中国政府関係者の間で議論された別案として、TikTokの米国事業をイーロン・マスクに売却し、彼の既存のソーシャルメディア・プラットフォームXと統合するというものがあった。TikTokは『Variety』の取材に対し、この報道を「完全なフィクション」と否定している。17日、トランプは中国の習近平国家主席とTikTokやそのほかの政策課題について「非常にいい」電話会談をしたと語っている

TikTokユーザーの怒りと絶望

TikTokの排除は米国民の間で特に支持を得ているわけではない。ピュー・リサーチ・センターの調査によると、政府による同アプリ禁止を支持する米国成人は2024年に32%と、2023年の50%から減少している。39%は判断を保留している。

TikTokユーザーたちはこの1週間、差し迫る禁止措置への怒りと絶望を表現する動画を次々と投稿した。米国政府の見当違いな優先順位を皮肉る辛辣な歌詞の楽曲が、彼らの抗議の声となった。「わたしに言わせれば、最大の問題はTikTok。地球温暖化でも、医療アクセスでもない。福祉なんてつまらない! 上層部は腐敗し、市民は銃で撃たれている。こんなことが起きているいまこそ、TikTokを禁止するのにぴったりの時期だね」

数十万人の米国TikTokユーザーは、別の中国系プラットフォーム「小紅書」にも殺到した。これは議員たちが主張する国家安全保障上の懸念などどうでもいい、という意思表示だった。「中国がわたしのデータをもっていようが、そんなことどうでもいい。冗談でしょ?」とTikTokクリエイターのイマニ・バーバリンは、約100万の「いいね」を獲得した動画で語った。「わたしのデータは、誰もがもっているんだから」

(Originally published on wired.com, translated by Mamiko Nakano)

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