1月30日(現地時間)、サン・セバスティアン、レアレ・アレーナ。ヨーロッパーグ(EL)のリーグフェーズ最終節、レアル・ソシエダ(以下ラ・レアル)は、ギリシャのPAOKに2-0と危なげなく勝利を収めている。これで13位となって、9位から24位で16強進出を争うノックアウトフェーズに勝ち進んだ(1位から8位は自動的にベスト16へ)。
ラ・レアルの久保建英は、後半に入って28分からの出場だった。「引き分けで24位以内が確定、大差で負けなければ24位以内の公算が高い」という条件だっただけに、FWミケル・オヤルサバルやMFイゴール・スベルディア、GKアレックス・レミロなど他の主力とともに温存される形になった。今後も中3日という連戦が続くだけに、当然の処置と言えるだろう。
久保は試合をクローズする役目を担い、難なくミッションを終えている。パブロ・マリン、ブライス・メンデスへのラストパスで、決定的なシュートもお膳立て。動きは俊敏で、視界もよく、コンディションも悪くないようで、トッププレーヤーとしての余裕すら感じさせた。昨シーズンも、アジアカップなどで日本代表に招集されていなければ、チャンピオンズリーグで活躍が見込めたはずだった……。
では、どうすれば久保はELで戴冠できるのだろうか?
ヨーロッパリーグPAOK戦に後半28分から出場した久保建英(レアル・ソシエダ) photo by Mutsu Kawamori/MUTSUFOTOGRAFIA「久保をムダ遣いしない」という一点に尽きるだろう。
久保はELでも、トップレベルのプレーを見せている。リーグフェーズで、1得点1アシストの活躍を見せて勝利の立役者になったアヤックス戦は象徴的だ。
あの試合の終盤、敵陣でクリアボールを拾った久保は、そのままドリブルをスタート。そこで目の前に突如、進むべき道が広がる。するするとそこに切り込み、相手を立ちすくませ、左足でボールを流し込んだ。
「モーゼの海割り」のような不思議な現象が起きたのには、伏線があった。
久保は試合を通してオランダ代表の左サイドバックをいたぶり、追い込んでいた。味方を生かすパス、縦への突っ込み、カットインなど、攻撃のバリエーションで圧倒。翻弄したあとの見事なアシストもあった。その繰り返しによって最後には相手の判断を混乱させ、そのズレをディフェンス陣全体にまで伝播させていたのだ。
【欧州のタイトルを狙うには厳しい戦力】
オランダは伝統的にウイング、サイドアタッカーの宝庫である。アヤックスはその急先鋒と言える。欧州の覇権を握った当時の隆盛こそないが、そこまで久保に手も足も出なかったのは衝撃だっただろう。補足すれば、そのアヤックスの伝統をバルセロナに持ち込んだのが、”空飛ぶオランダ人”ヨハン・クライフであり、久保はバルサの下部組織であるラ・マシアで育っているのだ。
久保のコンディションさえよかったら、ELで止められるディフェンダーはいない。言い換えれば、彼の力を削ることなく、ムダ遣いをしなかったら、いつでもゲームを動かせる。それは勝敗を左右することになるはずだ。
今シーズン、ラ・レアルを率いるイマノル・アルグアシル監督は、久保をベンチに置くたびに批判を受けている。特に日本国内では、そうした報道が加熱気味と言える。しかし、久保というリソースは有限で、一定のラインを越えてしまったら、パフォーマンスは間違いなく落ちるし、最悪の場合、ケガにもつながってしまうのだ。
たとえ久保本人がプレーを望もうとも、ムダ遣いは避けるべきだろう。
欧州でタイトルを取るためには、11人の主力では不可能と言える。控え組の選手もバックアップとなって、”ラッキーボーイ”になれるようでないと、戦況は厳しくなる。疲労が積み重なるだけでなく、対戦相手に研究され、対策も立てられてしまうからだ。
その点で、1.5軍で勝利したPAOK戦は、ひとつの試金石になるかもしれない。
それはよくも悪くも、バスクのクラブの伝統を生かした戦い方だった。右サイドに右利きのシェラルド・ベッカーを配置。彼がクロスを送る戦法で、長身で高さを武器にするオーリ・オスカールソンが頭で2ゴールを決めた。クラシックで単純な戦い方について、「これだけで勝ち上がれる時代ではない」というのは正論だが、ひとつのパターンと言えるだろう。
ベッカーもオスカールソンも、高いレベルでは、まだまだ限定的な起用法になる選手だが、アルグアシル監督が諦めずに彼らの使いどころを苦心して探してきたことが功を奏しつつある。
ラ・レアルは、ラ・リーガでの6位以内(欧州カップ出場圏内)、スペイン国王杯決勝進出、そしてEL優勝を目標に、3つの大会を同時に戦う。これは彼らのような規模のクラブではギリギリの戦いになる。3月から4月にかけて、心身の疲弊はピークに達するはずだ。
日本代表への招集を含めて、久保をムダ遣いせずに戦えるか。それが今後のラ・レアルの趨勢を決する。