この記事の写真をすべて見るタレントの堀ちえみさんの公式ブログに1万6千件を超えるメッセージを送り、管理会社の業務を妨害した疑いで無職の女が逮捕された。この容疑者は、堀さんを中傷する投稿をしたなどとして、警視庁が1月に侮辱と脅迫の疑いで逮捕していた。堀さんは昨年、AERA dot.のインタビューに、ブログやSNSで受けた誹謗中傷について、「精神が限界まで追い込まれた」と話していた。そのときの詳細を語った記事を紹介する(この記事は、2024年11月30日に配信した内容の再掲載です。年齢、肩書等は配信時のままです)。
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タレントで歌手の堀ちえみさんは、2019年2月にステージ4の口腔がん(舌がん)と診断された。闘病生活とリハビリを経て20年9月に芸能界に復帰し、今年4月にがんの完治を公表した。友人や芸能界の大切な人たち、ファンに支えられた一方で、SNS上では大量の誹謗中傷を受けて精神的に追い込まれたという。インタビュー中、時折、声を詰まらせて涙を流す場面もあった。誹謗中傷で受けた想像を絶する被害の実態について語ってくれた。
〈前編〉堀ちえみ、がんで舌の6割以上を切除で「『イス』の2文字がうまく言えなかった」 苦悶のリハビリに涙から続く
https://dot.asahi.com/articles/-/242002
――今年9月、SNS上の誹謗中傷に対する民事訴訟が和解したことを、公式ブログで発表しました
ブログはファンの方たちと交流できる場所なので大切にしています。実際に口腔がんを公表したときは「絶対大丈夫」「元気になって会おうね」と一つひとつのメッセージが心の支えになりました。でも、「病気は嘘だ、詐病だ、ステージ4の人間が抗がん剤を打たずに済むわけがない」「死ななかったからステージ4は嘘だろ」「こういうしゃべり方を装っているだけで病気でも何でもない」などと、目を疑うような誹謗中傷の文言が書き込まれて。
一人から100件以上の誹謗中傷が書き込まれた
――どんな人たちが何のためにですか?
警察の捜査によると、ほんのわずかな人間が複数のIDで書き込んだ可能性が高いということでしたので驚きました。こんな分かりやすい部位のがんなのになんで詐病って言われるんだろうって。失ったものがたくさんあるのに、どうやって生きていけばいいんだろうと苦しくなりました。がんになったことを認めているうえで、「しゃべり方が気持ち悪い」「消えろ」というコメントもありました。
――激励のメッセージの方が圧倒的に多いようですが、誹謗中傷のコメントが脳裏に刻まれますよね
そうなんです。周りの人に「気にしないように」って言われても、人間の尊厳を否定するようなコメントが目に入ってくるので、誹謗中傷の書き込みをする人をなくすことを考えないと、命を絶つ人が出てきます。私も実際に追い詰められました。「まだ生きているのか。しぶとい」「あの時に死んでほしかった」「みんなから嫌われている」とか、毎日50~60件、多いときに100件以上の誹謗中傷が一人の人間から書き込まれたんです。
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昨年2月からの2カ月間が一番ひどかったです。気にしないようにしても、ライブのステージ上で一瞬その言葉がよぎってしまうんです。人前に立つのが怖くなり、メンタルが壊れそうでした。がんは完治しましたけど、SNS上の誹謗中傷で精神が限界まで追い込まれて。「生きていないほうがよかったのかな」と何度も思いました。
――SNS上の誹謗中傷以外に嫌がらせはありましたか
決まりかけた仕事だったのに、「ごめんなさい」と断られたことが多々ありました。一番下の娘が小学生のころには、児童相談所の方が自宅に来たこともあります。「親が虐待していると通報がきました。お子さんを大事にしているのはこちらも把握していますが、通報が入ったので動かなきゃいけないんです」と説明を受けて。子どもたちが通う学校にも「子どもが虐待されている」と執拗に連絡が来ました。主人の職場やSNS上にも「主人が飲酒運転している」ってデマを流されて……。
「この人が書き込んだんじゃ……」
術後仕事に復帰した後、開催予定だった講演会に「がんではない人間を使うな」と嫌がらせの電話が来ました。講演会を依頼してくれたクライアントは「屈しません」って言ってくれましたが、営業妨害で1時間以上電話を切らないことがあったと聞きました。こういった嫌がらせをされると、オファーをいただいた方に迷惑がかかります。
――身の危険を感じたことは?
SNS上の書き込みがエスカレートして、「あなたが死なないなら私がどうにかします」と殺害予告を受けたときがありました。ライブの開催を発表して、「何が起きるか分かりませんよ」と書き込まれたので、警察に通報してライブ中に客席で警備していただいたこともあります。実際に危害を加えられたことはないのですが、歩いているときにすごい表情でにらまれていると感じたことがあって。でも、私が勝手にそう思ったのかもしれません。人間不信でしたね。親しい人も「この人が書き込んだんじゃ……」って信じられなくなっていました。愛犬を傷つけるような書き込みも何度もあったので、散歩で外出することも怖くなりました。
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――堀さんは誹謗中傷を行った加害者を情報開示請求で特定し、刑事告訴、損害賠償請求訴訟を行っています
私みたいに誹謗中傷の被害に遭っている人を1人でも多く減らしたいんです。これはれっきとした犯罪です。以前、民事訴訟をして損害賠償請求した相手の20代の男性が「誰でもよかった。過激なことを書けば書くほど周りのアンチからよくやったとほめられるのがうれしかった」と供述していたということに驚きました。誹謗中傷をするのは一種の依存症ですし、社会全体で取り組まなければならない、大きな問題だと思います。
――辛かったときに支えになった存在を教えてください
家族もそうですし、ファンの方たちですね。ネット上の心ない言葉を信じないで、私を励まし続けてくださいました。ファンの方たちも辛かったと思うんです。でも誹謗中傷をした人に処罰が科せられることによって、不快な思いをしないですみます。堂々と胸を張って応援してもらえるようになりたいですね。
――がんの早期発見を呼びかける啓発活動と共に、アーティストとして輝き続ける堀さんを楽しみにしているファンがたくさんいると思います
発声のリハビリを続けることで音域が広がり、歌える曲のレパートリーが増えてきました。芸能活動45周年でライブをやりたいという目標がありますし、全国のいろいろな場所で歌ってファンの方に感謝の言葉を直接伝えたいです。辛い思いをしましたが、ファンの方たちの言葉によって支えられました。感謝の思いをまだまだ伝えきれていないですし、私の命を救ってくれた皆さんに恩返しができるように精いっぱい頑張ります。
(聞き手・平尾類)
今年10月29、30日に渋谷で開催したライブで熱唱する堀ちえみさん
ほり・ちえみ/1967年2月15日生まれ。大阪府出身。ホリプロタレントスカウトキャラバンで優勝したのをきっかけに芸能界入り。82年3月に「潮風の少女」 で歌手デビューし、83年に初主演したドラマ「スチュワーデス物語」が大ヒットした。 女優、歌手、タレントとして幅広く活動していたが、2019年にステージ4の舌がん、リンパ節への転移が判明。手術、闘病生活を経て20年1月に芸能活動を再開した。闘病生活についてつづった著書、ブログ、講演などで自身の実体験を発信している。歌手活動を再開すると、昨年、今年とライブを開催し、今年10月には自身が作詞を手掛けた17年ぶりのニューシングル「FUWARI」を発売した。