タレント・中居正広氏の女性トラブルに、フジテレビ社員が関与したと報じられている問題で、フジテレビの港浩一社長らが17日、記者会見を開いた。元テレビ東京社員で、桜美林大学教授の田淵俊彦さんは「港社長は会見で今回のトラブルを1年半前に把握していたことを明かしている。これまで何も説明せず、中居氏を起用してきた責任は重く、日本のテレビ局に共通する体質、悪癖が現れている」という――。
記者会見するフジテレビの港浩一社長=17日午後、東京都港区のフジテレビ
沈黙を続けてきたフジテレビ
中居正広氏の性加害疑惑で、芸能界が揺れている。事の発端は、昨年12月19日発売の『女性セブン』(小学館)、同月25日の「スポニチ」、翌26日の『週刊文春』(文藝春秋)が相次いで中居正広氏の性加害疑惑を報道したことだ。
これらの記事は、2023年6月上旬、中居氏から意に沿わない性的行為を受けてトラブルに発展した20代の芸能関係者X子さんに、中居氏側が9000万円もの巨額解決金を支払ったという内容だった。
複数のメディア報道が、被害者とされる「20代の芸能関係者X子さん」は、昨年の夏にフジテレビを退社したアナウンサーだと報じている。そしてこの中居氏とアナウンサーの場をセッティングしたのが、フジテレビの編成幹部のA氏だと取りざたされている。
中居氏は2025年1月9日に公式サイト「のんびりなかい」で「トラブルがあったことは事実です」と述べ、示談があったことを認めて謝罪している。
一方のフジテレビは、年末に自社サイトで「(『週刊文春』の)記事中にある食事会に関しても、当該社員(前述のA氏を指す)は会の設定を含め一切関与しておりません」「会の存在自体も認識しておらず、当日、突然欠席した事実もございません」と主張し、一切の「関与」を否定したきり、公式発表をおこなっていない。そして1月15日に公式サイトを更新し、17日になってやっと港浩一社長による緊急記者会見を開くまで、およそ20日間にわたって「沈黙」を保ち続けた。
女性セブンのスクープ、投資ファンドの警告、文春砲…
なぜフジテレビは、「ダンマリ」を決め込んだのか。そして、なぜこのタイミングでの社長会見なのか。その答えは、この事件の経緯を時系列で整理してみると明確に見えてくる。
今回の性加害疑惑を『女性セブン』が最初にスクープしたのは12月19日、そしてフジテレビが公式サイトで前述の「関与否定」のコメントを出したのが27日だ。そして年が明けて14日にフジ・メディア・ホールディングスの株式を7%超保有する米国の投資ファンド、ダルトン・インベストメンツとその英国関連会社が、フジ・メディアHDに対して第三者委員会の設置を要求する書簡を送付した。
この翌日の15日、フジは公式サイトを更新して「昨年より外部の弁護士を入れて事実確認の調査を開始しており、今後の調査結果を踏まえ、適切な対応をしてまいります」と明言した。さらに翌日の16日には、『週刊文春』に同局の別の現役女性アナウンサーの告発内容が掲載され、これを受けたようなかたちで記者会見をおこなうことが発表された。
以上の流れを検証してみると、フジテレビの沈黙を破るきっかけとなったのは、14日の投資ファンドからの物言いである。もしこれがなければ、今もフジテレビは「ダンマリ」を決め込んでいたかもしれない。保有率7%とはいえ、株主の要望は無視してはいられない。
そして決定打は『週刊文春』の記事によって、常習的な「アナウンサー上納システム」が疑われる事態となったことだ。
Page 2
まず、これまでの経緯説明を丁寧におこなったという点においては評価したい。そのうえで、2つの点を指摘する。一つ目は「調査委員会」に関してだが、日弁連(日本弁護士連合会)が定める「企業等不祥事における第三者委員会ガイドライン」に基づく「第三者委員会」ではない可能性が大きい。
同席した石原正人常務は「客観性や透明性は確保している。スピード感を持って調査を進め、真実を解明する」と説明したが、純粋な第三者委員会でなければ、どこまで客観性や透明性が確保されるのか、はなはだ疑問だ。「第三者の弁護士」と言っているのだからまさか会社の「顧問弁護士」ではないと思うが、会社の息がかかった人物がメンバーにいる限り、調査の独自性が担保されることはない。
港氏が「調査委員会の調査に委ねる」「調査結果を待ちたい」「今後調べていただきたい」と繰り返し述べたことも気になった。「調査委員会に任せたから、あとは……」といったようなニュアンスがなければいいがと思ったのは、私だけではないだろう。
そして二つ目に指摘したいのは、なぜ1年半も前に事件を知りながら、それを放置していたのかということだ。港氏は中居氏への聞き取りをしなかった理由を、被害者本人の「心身の安全や回復」や「プライバシーや人権の保護」を優先し、「本人の意向」を尊重したためと繰り返したが、その一方で「この件は会社としては極めて秘匿性の高い事案として判断していました」と明かしている。
「秘匿」とは「秘密にして隠すこと」であり、「隠蔽」と同じ意味だ。「すべて被害者女性本人を考えてのこと」と強調するあまりかえって嘘っぽく感じると同時に、結局は会社の秘密を守るためなのかと思えてくる。「本人の意向」を言い訳にすっるのもおかしいのではないか。本人の意向、プライバシーや人権を尊重するのであれば、公表しないで内部調査をすることや中居氏側へのヒヤリングを進めることもできたのではないか。
これでは、「ダンマリ」を決め込んだのは、喉元過ぎて当事者が忘れてくれるのを待っていたのではないかと訝しがられても仕方がないだろう。
そして最も私が驚いたのは、記者の「社長として被害者女性にコメントはあるか」という質問に答えた港氏の言葉であった。
「被害者女性に対して何か一言ということであれば、活躍を祈りますという言葉です」
謝罪や労いの言葉ではなかったのだ。これが、いち上場企業を代表した人の言葉だろうか。
※写真はイメージです
隠蔽はテレビ局”共通”の体質なのか
最初に挙げた「なぜフジテレビは、『ダンマリ』を決め込んだのか」という最大の疑問を解くためには、以下の2つのテレビ局にまつわる性加害事件が糸口になる。
2015年にフリージャーナリストの伊藤詩織氏が、TBSテレビの報道局記者であった山口敬之氏から性加害の被害を受けたとして損害賠償を求める訴訟を起こした。2018年にはテレビ朝日の女性記者が、財務省の福田淳一事務次官からセクハラ行為を受けたとして福田氏との会話を録音した内容を『週刊新潮』に提供した。前者の伊藤氏は最高裁で勝訴し、後者のテレ朝は内部調査をして女性記者へのセクハラはあったと判断し、報道局長による緊急会見をおこなった。
だが、このプレジデントオンラインでも指摘したテレ東系列の子ども向けバラエティ番組「おはスタ」の性加害疑惑や今回のフジテレビの件など、タレントや出演者が加害者の可能性がある場合になると、とたんにテレビ局は「ダンマリ」を決め込んでしまう。
「おはスタ」の性加害疑惑とは、出演者のお笑いタレント、アイクぬわら氏が共演者で未成年の「おはガール」複数名を自宅に連れ込んだり誘ったりしたことが局内で問題視されていたことを『週刊文春』が報じた事件である。
Page 3
投資ファンドから「コーポレートガバナンス(企業統治)に問題がある」と指摘されたにもかかわらず、これまでもガバナンスにひっかかるようなことをやっていたのであれば、言い逃れができない。会社としては、社長自ら「そんなことはない」と否定しなければならない。そういうことになって、急遽会見が組まれたのだと私は分析している。
また、今回の記者会見を後押ししたのは、総務省や国会議員の存在もあると私は推察している。「J-CASTニュース」の取材によれば、総務省地上放送課には、国会議員から「どのように考えるのか」「調査しないのか」といった問い合わせが来ているという。フジテレビも港氏も国会召喚は避けたいところだろう。
そんな崖っぷち状態の緊急を要する会見であったために、充分な準備はできていない。もともと定例の社長会見が予定されていたのは、2月末だ。会見に参加した記者によれば、「会見は非常に閉鎖的であった」という。フジテレビが今回の記者会見を新聞社などが加盟する記者クラブの要請に基づいて開催したと説明しているように、当初はNHKや民放テレビ局も会見への参加を拒否されていた。
その後、民放各局が記者クラブ側と交渉した結果、NHKと民放各社は「オブザーバー」として1人の参加が認められた。だが、オブザーバーであるため質問はできない。テレビカメラも入れられない。
記者クラブの記者も「各社2名まで」とされ、雑誌媒体やネットニュース媒体、フリーの記者などはシャットアウトされていた。まるで「厳戒態勢下の報道規制」のようだ。報道機関でありながらこういった制限をかけるのは、何かを隠蔽していると思われても仕方がないだろう。「内輪会見」と揶揄されたのも無理はない。
東京・台場にあるフジテレビ(写真=Khafre/CC-SA-3.0/Wikimedia Commons)
「調査委員会を立ち上げる」としか言えず
これらの状況を鑑みれば、この会見が“緊急的に”おこなわれたことがわかる。フジテレビは必要に迫られ“仕方なく”会見をおこなったのだ。苦情や問い合わせが増えているスポンサー対策の意味もあっただろう。現時点でいろいろ突っ込みを入れられたくない、そんな警戒感がひしひしと伝わってくる。
そしてその内容だが、終始歯切れが悪く、のらりくらりと時間だけをかけて進められ、最終的には「調査委員会に委ねる」という報告に留まった感がある。港社長は「第三者の視点を入れて改めて調査する必要性を認識しましたので、今後、第三者の弁護士を中心とする調査委員会を立ち上げることとしました」と述べたが、「第三者の弁護士」がどういった人物を指すのかが不明瞭だ。
また、港氏は事件を知ったタイミングについて「弊社は発端となった事案について直後に認識しておりました。2023年6月初旬となります」と明らかにし、それを公表しなかった理由として「他者に知られずに仕事に復帰したいとの女性の意思を尊重し、心身の回復とプライバシーの保護を最優先に対応してまいりました」と述べ、「報告は私まで上がってきておりましたので、対応に関する判断は私の責任となります」と自分一人が責任を被るかのような発言も見られた。
中居氏への正式な聞き取りはしていないが、「事案からしばらくして、中居氏から女性と問題が起きていると連絡がありました」「その後、両者で示談の動きが進んでいるとの情報も聞いておりました」と明言した。
Page 4
テレビ局の「ダンマリ」という現象は、なぜ起こるのか。
それは、「タレント個人のことには、テレビ局は関与しない」という業界慣習があるからだ。そしてそのベースにあるのは、以下の2つの弊害である。
1. 「タレントは事務所の監督下にある」という考え方
2. 事務所やタレント本人への忖度
世間に通用しない業界慣習
1.の「タレントは事務所の監督下にある」という考え方については、そもそもおかしな話だ。テレビ局には出演者の「監督責任」があるのではないか。テレビ局はその人物を選んで番組に起用した責任がある。だから、出演者の言動や行動が公共の倫理や法的規範を逸脱しないように留意する必要がある。
近年、出演者が暴力や詐欺などの違法行為によって経済的利益を追求する「反社(反社会的勢力)」でないかを出演前に確認するのも、その理由からだ。出演者個人の行動すべてを監督することは難しいため、出演者の不祥事への対応はケースバイケースで異なるだろうが、少なくとも出演者が問題行動を起こした場合、適切な対応を取る責任はあるのではないか。
2.の「事務所やタレント本人への忖度」については、今に始まったことではない。見ているのに「見ないふり」、知っているのに「知らないふり」をするのは、テレビの得意芸だ。そんなテレビの悪癖が、今回のフジテレビの対応にも顕著に表れている。
※写真はイメージです
企業ガバナンス以前の問題
今回の記者会見の港社長の発言によると、フジテレビ上層部は(少なくとも港氏は)事件直後に事件のことを知っていた。しかし、それは公になることも、調査がされることも、ましてや中居氏側に抗議をすることもなかった。だから、被害者女性は週刊誌で告発せざるを得なかった。前述のテレビ朝日の女性記者のときとまったく同じ構図だ。
2018年4月18日の「AERA dot.」によると、女性記者は福田淳一事務次官からセクハラ行為を受けた後、上司に相談したが、上層部が適切な対応を取らなかったため「セクハラについて事実を曖昧にしてはいけない」という思いで『週刊新潮』に情報提供をおこなったという。これが事実なら、社員の「SOS」をまともに受け止めないどころか、それを握りつぶそうとしたということになる。
「企業ガバナンス」以前に、人間としてどうなのか。そしてこのことからわかるのは、「権力者」に対して忖度をして都合が悪いことを握りつぶそうとする傾向がテレビ局の体質として存在するということだ。それは会社が変われど、繰り返されている。だとしたら、今回のフジテレビの場合も、その可能性があるのではないだろうか。
2024年10月20日放送のNHKスペシャル「ジャニー喜多川 ”アイドル帝国”の実像」に私が出演して、「見て見ぬふり」や「忖度」といったテレビメディアの悪しき風習を指摘したが、そのときと何も変わっていない、変わろうとしていないと愕然とする思いだ。彼らには何も響いていない。