栃木県益子町在住の絵本作家いわむらかずお(本名・岩村和朗)さん(85)が、2024年12月19日、亡くなった。下野新聞の報道から足跡を振り返る。(カッコ内は紙面掲載日)
私の視点 2020とちぎ知事選 1票投じ社会に参加を(2020年11月13日)
知事選の投票率が30%台-。こんな数字を見ると情けなく思います。私は投票を棄権した記憶がありません。選挙権を獲得するのに先人たちがどれほど苦労したか。そう考えると棄権は考えられません。
日本で初めて選挙が行われたのは1890(明治23)年で、選挙権は国税を15円以上納めている25歳以上の男性でした。1925(大正14)年に25歳以上の全ての男性になり、45年に太平洋戦争が終わり、20歳以上の男女となりました。
特に女性が参政権を獲得するまでには長い時間がかかりました。もし女性に参政権があったら、あの戦争の時代が少し違うものになっていたかもしれません。
今は18歳から選挙権があります。18、19歳の人も「分からない」と言っていないで、自分で考え、結論を出すことが選挙でも大切だと思います。
1票を投じることは、まさに社会に自分が参加していくことです。自分の住んでいる地域や国に影響を与える。わずか1票ですが、集まって力になっていきます。人から強制されるものでもありません。それを否定してしまったら民主主義を否定することになります。
ちょうど、米大統領の選挙が行われました。報道を見ていても、あれだけ大きな国でも、一人一人の1票が大きな力を持つということを改めて感じました。
今回は国政選挙ではなく知事選なので、こういう栃木県だといいなということを夢でもいいから描いてみるのはどうでしょう。少し楽しんで、候補者のうち、どちらが自分の描く栃木県に近いかを考えてみます。
私の場合、例えば原発の問題などを考えます。知事なので直接的に関われないこともありますが、知事の考えが与える影響は大きいです。福島県の隣の県でもあり、栃木県にも指定廃棄物の問題で困っている人たちもいるわけですから。
選挙公報を読んでも、すぐに決められるようなものではありませんが、この候補者のほうが、自分の考えとか、感覚とか、生活感とかに近いな、というのはあります。
知事選で1票を投じたその瞬間、栃木県民だという意識を感じます。すっと投票用紙が落ちていったときに。そういうことは大事ですよね。
私の生きた刻 自然と共に描き続ける(2016年6月25日)
だいぶ前から「14ひき」シリーズの13作目となる新作に取り組んでいます。美術館のある絵本の丘をフィールドにした14ひきの作品としては、「かぼちゃ」「とんぼいけ」「もちつき」に続いて4作目。この丘の草花や木の実をていねいに描き込んでいます。
創作にはITの力も借りています。草花の写真を撮影してパソコンに取り込み、拡大して資料にしています。以前から写真を紙焼きにしていましたが、細かな部分がよく分かるまでは拡大できませんでした。便利になったものです。
でも絵を描くときはITは使いません。
気に入った画用紙にペンとインク、筆と水彩絵の具で描く。画用紙とペンが触れる感覚や、絵の具を混ぜ合わせて色をつくり、それを紙が吸い取ってくれる具合、淡い色を何回も重ねて納得のいく色が出来上がった瞬間など、何ともいえない充実感があります。絵が出来上がっていく過程で「おっ」と思うくらい、画面に密度が出るような瞬間があるのです。
「タンタン」原画初公開 那珂川・絵本の丘美術館(2015年9月22日)
【那珂川】絵本作家いわむらかずおさんのサルを主人公にした初期の人気作品「タンタン」の誕生40周年を記念した「タンタン展」が、小砂(こいさご)の「いわむらかずお絵本の丘美術館」で開かれている。初公開の絵本原画のほか、創作資料や翻訳絵本などを展示。いわむらさんは「40年たっても世界中で生き続けている作品。タンタン好きな子どもから、当時を懐かしむ大人まで、作品展で楽しい時間を過ごしてほしい」と話している。
タンタンは1976年の「タンタンのずぼん」をスタートにシリーズ化。「タンタンのぼうし」「タンタンのハンカチ」「タンタンのしろくまくん」と、84年まで4作品が偕成社から出版され、いわむらさんの最初のヒット作品となった。
ズボンやハンカチなど身近な物で遊びを楽しむタンタンはイギリスや米国、フランス、デンマーク、ドイツ、韓国などで翻訳出版された。現在でも世界中の子どもたちに愛され続けているロングセラー作品だ。
作品展では、初公開の絵本原画とともにエッセー、創作資料・ノート、翻訳絵本など約40点を前期と後期に分けて展示し、当時のいわむらさんの息遣いを感じることができる。また同時期に描いた「りんごがひとつ」「14ひきのやまいも」「トンとポン」などの原画も展示している。