レアル・ソシエダ(以下ラ・レアル)の久保建英(23歳)が、「俊敏でスキルが高く、ゴールもできる優秀なアタッカー」であることは広く知られている。今や敵チームがマンマークをつけるだけでなく、ダブルチームを組むことも珍しくない。守備包囲網を突き破るほどの脅威を与えているのだ。
久保がラ・レアル入団以来、得点した試合は19勝1分け。不敗伝説を作り、まさに「勝利の神」のような存在にもなりつつある。
「数字は別にしても、タイプはリオネル・メッシに近いだろう。止める手立てがない」
そうした称賛の声が、ファンや記者たちだけでなく、元選手や監督からも聞こえてくるほどだ。
ただし、メッシとの比較には、「小さい」という枠組みがつきまとう。すばしっこいが、どうせ高さはない。そこにわずかな揶揄も含まれる。
しかしもはや、久保はそんな前提も覆そうとしている。
スペイン国王杯準々決勝、オサスナ戦で、久保は貴重な先制点の起点になっている。トリッキーなドリブルや神がかったパスではない。ヘディングでの連係だ。
オサスナ戦で先制ゴールの起点となるプレーを見せた久保建英 Mutsu Kawamori/MUTSUFOTOGRAFIA
GKアレックス・レミーロが蹴ったロングボールに対し、久保はいち早く落下地点を見極めている。助走をつけてジャンプ。敵ディフェンダー、ファン・クルスの前に出て、確実にヘディングで味方のアンデル・バレネチェアにつないだ。そのボールを、バレネチェアはミケル・オヤルサバルとの連係からゴールに流し込んでいる。
「ロングボールに対し、驚くべきことに久保はファン・クルスに競り勝っていた」
スペイン大手スポーツ紙『アス』はそう記述している。
クルスは身長180センチ。センターバックも兼任する左サイドバックで、空中戦も強い。そもそも、ラ・レアル、アスレティック・ビルバオ、オサスナ(ナバーラ州だが)など、バスク地方のクラブのディフェンダーは、高さ・強さ・激しさを第一に求められる(したがって、たとえばロングスローは通用しない)。鋭く重い弾道のクロスやロングボールと、そのこぼれ球からのキック&ラッシュ攻撃が今も気風に残り、空中戦で負けた場合は「惰弱」と烙印を押されるのだ。
【不得意なことにも向き合える】
そんな相手にもかかわらず、久保は競り合いで易々と勝っていた。『アス』の記者が「驚くべきことに」と書いているように、油断を誘ったのもあったのかもしれない。しかし、久保は「空中戦だけは負けない」と誇る守備の番人に勝っているのだ。
一事が万事、この点だけでも、久保がコンプリートな選手に近づいている証左だろう。
ヘディングはボールの軌道を見極める目が大事で、相手との駆け引き、ポジション争い、ジャンプのタイミングなど、単なる高さだけではない要素が入る。つまり、工夫によって上達が可能と言える。
その点で言えば、久保より背の低いメッシも、実はヘディングが不得手ではない。タイミングをつかみ、スペースに飛び込めば、あとはボールとコンタクトするだけ。意外にヘディングでの得点も少なくないのだ。
かつて、バルセロナの右サイドバックとして活躍した元ブラジル代表ダニエウ・アウベスが面白い証言をしていたことがあった。
「ドリブルやボール技術だけなら、たとえばスペイン代表のヘスス・ナバスはメッシと同じくらいのレベルにあると思う。しかしメッシのほうがずっと”成熟している”。彼はひとつのプレーに満足しない。ヘディングだって、フリーキックだって、なんだって上達する。最初はうまくなくても、完璧を目指すというのか、そのエネルギーは周りを巻き込むほどで、世界最高の選手になったのは必然なんだ」
カットインからのシュートで観客を沸かせる選手は、いくらでもいる。しかし、そのうまさに甘んじず、自分の不得意と言われるところにも向き合える。そうした貪欲な選手は限られている。
その意味で、久保はメッシの系譜を継いでいる。久保は体の小ささや弱さを揶揄されることもあった。足だって、目立つほどには速くない。しかし、自分の武器であるスキルとビジョンのレベルを高める一方、体幹を鍛え、腕の使い方を覚え、目を養い、相手の勢いを逆手に取る動きを身につけた。足の運びも改善され、傑出した技術にステップが調和。さらにヘディングも工夫し、高さまでも克服した。
もちろん、久保はフィジカルプレーヤーではない。しかし、コンタクトがあるスポーツである限り、自らの体を思うように操れることはアドバンテージになる。彼はそれを習得したことで、技術やセンスを最大限に発揮できている。
ラ・レアルはオサスナを2-0で撃破し、昨シーズン同様、準決勝進出を決めた(昨シーズンはチームが失速し、準決勝はマジョルカにPK戦の末に敗れている)。
久保にとって、初のタイトルが見えてきた。アトレティコ・マドリード、レアル・マドリード、そしてバルサと、列強が残った。来週12日に行なわれる組み合わせ抽選次第だが、強敵を破ってこそ称賛を浴びる。進化を遂げる彼の見せ場だ。